夏休み

小中学校が夏休みに入った。子供の頃の夏休みの思い出を辿れば、家の近くの甲府駅や舞鶴公園で遊んだことが思い出される。セミやトンボ、蝶やコガネムシ、カミキリムシ、クワガタやカブトムシまで、粗末な竹網を持って一日中真っ黒になって昆虫採取に明け暮れていた。お城のお堀ではザリガニまで捕れたのだ。二の丸と思える広場にはテニスコートがあって、夏のぎらぎらした日差しとボールを打つ音が今でも鮮明に脳裏に残っている。

ラジオ体操は、近くの橘公園や県庁の議事堂の庭でしたのを覚えている。議事堂の地下通路にはコウモリがいて、時に建物の壁にぶつかって近くの通路に転がっていた。

学校の先生から言われ、玄関の軒先に勉強中という札をぶる下げて、朝の涼しい時間に勉強することになっていたが、勉強など全くしなかった。打ち水や扇風機が涼を取る手段で、玄関や玄関先の道路を箒で掃き打ち水をした。どの家の軒先にも大きなゴミ箱があって、定期的に役所でまとめにきた。駅には、気のふれたおばさんの乞食がいて、道路を掃除して皆からご飯をもらって食べていた。

私の家の周りは商売屋ばかりだったが、なぜか私の家は仕舞た屋であった。知り合いが駅の待合に立ち寄ることも多く、そんな時はみんな普段は見られない綺麗な恰好をしてくるので、子供ながらに何処か遠くへ行くのが分かった。

一日中、人が往来する靴音が聞こえ、夜は甲府駅の貨物列車の連結の音や、昼は運送屋のトラックの音が響き、昼時や夕方には寿司や焼肉やラーメンや餃子やカレーの匂いに混じって、モツ煮や焼き鳥や酒の匂いもした。酒屋、肉屋、床屋、お土産品店、自転車預かり店、お菓子、大衆風呂、すし屋、大衆食堂、印刷屋、左官業、大工、油屋、薬屋、お蚕種屋、飾や、仕立て屋、電気屋、旅館、犬猫病院、医者、本屋、金物屋、鉄工所、金バケツ製造、タイヤ製造、自動車部品店、映画館やレコード店まで、生活に関わるすべての商売屋が私の家の周りにあって、どの家にも子供がいて、映画などは、映画館の周りで遊んでいるとタダで入れてくれた。どの家も貧しく、狭い街にひしめきあって生活していた。

狭い砂埃の舞う道路で、面子やビー玉、縄跳び、馬乗り、缶けり鬼ごっこ、ドッジボールやキャッチボールまでして遊んだ。今泳げるのは前の自動車部品屋の兄さんが緑ヶ丘の県営プールにほとんど毎日自転車の後ろに乗せて連れていってくれたお陰で、将棋も野球もみんな町内の兄さん達が道路や店先で教えてくれたのである。女の子もお転婆で元気がよくスカートで鞠つきやフラフープ、ゴム跳びや馬乗りまでして、今考えてみれば問題である。

夏休みの勉強は、毎年そっちのけで遊び呆け、天気記録や日記や絵や工作を、残り2日で仕上げるのが常であった。そんな私に、親は早くから失望して半ば諦めていたように思う。無償の愛を注ぐ親の恩寵に最後まで報いられなかった自分が情けない。慙愧と痛恨の想いは今も絶えることがない。

アイスキャンディーやカキ氷、カルピスやスイカに、そんな子供の頃の想いが重なり、大人になってからは、如何に下らない事ばかり考えて生きていたかを改めて思い知った。愚かである。今や生家はなく、共に遊んだ友の家は駐車場やファミレスや予備校などのビルになって跡形もない。銭湯までなくなってしまった。

「行(ゆ)く川の流れは絶えずして、しかも もと(本)の水にあらず。淀(よど)みに浮ぶうたかた(泡沫)は、かつ消えかつ結びて、久しく止(とゞ)まる事なし。世の中にある人と住家(すみか)と、またかくの如し。」と鴨長明の「方丈記」にあるように、この世は無常であり、その時その時を精一杯生きるのが賢人の知恵である。

明日を夢見て先を急ぎ、今を失った日々は戻らない。まさに、愚かな老人の嘆きとしかいいようがない。しかし、努力して働けば今よりましな生活ができると信じた自分が、なぜか愛おしく、褒めてやりたいと思う。

例え貧乏であっても、親や兄弟や近所のおじさんやおばさんに囲まれ愛されて生きていた時代が、今より駆るかに心豊かであったとしても、高度成長を信じ生産性の向上と近代民主主義を疑わずして働きに働いた私達の年代の半生は、哀歓を持って想い遣っても決して笑えない。

誰もが明日を信じ真剣に生きた結果が今だからである。そんなことを考えながら、この夏も孫や子供たちと楽しく過ごして、失った日々を取り戻そうと想うのである。

 

jpjapon について

3匹の犬と優しいけど時々意地悪な元気なおばさんと桃やブドウに囲まれた田舎で暮らしています。音楽と写真が大好きなパソコンフリークです。日々の想いを、聖書の御言葉や御仏の教えを交えて仲間と語り合うのが大好きです。平凡な日常から垣間見る世間の出来事を、自分流に書き綴っていきたいと思います。
カテゴリー: 未分類 パーマリンク

1 Response to 夏休み

  1. 内藤栄八郎 のコメント:

    いい文章ですね。思わずコメントしてしまいました。生活実感があるからだと思います。何回も読み返しました。

コメントは停止中です。